Tom Waitsのアルバムここがいい!
それでは、それぞれのアルバムについて独断のコメントです。音楽の聴き方は十人十色、千差万別。「ほぅ、こんな聴き方する奴もおるんか。」程度に思って読んでもらえると有り難いです。欲を言えば、新たにあるいは再びアルバムを手に取るきっかけになってくれたりすれば幸いです。

[アイランド移籍以前(主にアサイラム時代)の録音]
[Closing Time] - [The Heart of Saturday Night] - [Nighthawks at the Diner] - [Small Change] - [Foreign Affairs] - [Blue Valentine] - [Heartattack and Vine] - [Asylum Years] - [Early Years] - [Early Years Vol. 2] - [Used Songs] - [One from the Heart]
[アイランド移籍以降(アイランド、エピタフ)の録音]
[Swardfishtrombones] - [Rain Dogs] - [Franks Wild Years] - [Big Time] - [Night on Earth] - [Bone Machine] - [The Black Rider] - [Beautiful Maladies]
[Mule Variations] - [Alice] - [Blood Money] - [Real Gone]

[コンピレーション参加・ゲスト参加もの(以降追加予定)]
[Stay Awake] - [Dead Man Walking] - [Extremely Cool] - [Big Bad Love]

  • Closing Time ('73)
    ウェイツ23歳のデビュー作。当時の流行のフォークロックっぽいアレンジで、ジャズっぽくしたかったウェイツ本人とプロデューサーとでかなりもめたそうですが、いい曲が沢山あって、ウェイツのビートニク世界が広がっています。数多くカバーされているOl' `55やMarthaなんて曲はこれが23歳の男の書く曲か思わせる内容。とにかく名曲ぞろいです。

  • The Heart of Saturday Night ('74)
    前作の翌年に出されたこのセカンドアルバムは一変してかなりジャジーなアレンジです。これ以降、アイランドに移籍するまでは同じコンセプトで同じプロデューサー、ボーンズ・ハウのもとで発表し続けます。このアルバムは何と言っても最初のNew Coat of Paint。けだるい酔いどれ気分のスイングした4ビートにのせて洒落た台詞が連発され、もうそこは酔いどれウェイツのいる土曜日の酒場。続くSan Diego Serenade、Semi Suiteといい、表題曲The Heart of Saturday Nightといい、ウェイツ流のビートニク世界にどっぷり浸かれます。とにかくすごくまとまりがあって全曲お勧め。

  • Nighthawks at the Diner ('75)
    トム・ウェイツの酒場での酔いどれライブを録った2枚組みアルバム。CDでは1枚にまとまっています。最初から最後までとぎれることなくジャズバンドの伴奏とウェイツのおしゃべりと歌が延々と続きます。ブックレットには明記されていないウェイツ節のジョーク(隠語連発で理解できないのも多いですが)は聴く価値があります。とにかくその場の雰囲気が伝わってきて楽しいアルバム。ただ、トム・ウェイツらしい夜の街の裏側を見つめた曲を期待して聴くと裏切られるところがちょっと不満。バーボンを片手に聴くといいかもね。

  • Small Change ('76)
    トム・ウェイツの代表作。ジャケットのストリップ小屋の楽屋で一服するウェイツの姿がこのアルバムを象徴しています。声は以前からは格段にダミ声になって裏通りの一喜一憂を克明に浮き彫りにしています。オープニング・ナンバーのTom Traubert's Bluesは彼の最高傑作。社会の底に落ちたならず者を低いダミ声で描写する様は見事としかいいようがない。しかし、続くStep Right UpやPasties and G-stringといったナンバーで笑いの渦に巻き込み、再びアウトサイダーたちに目を向けてはThe Piano Has Been Drinking なんて曲ではっと我に帰らせる。終ってみればやっぱり裏の社会へのウェイツの視線がなげかけられる。このアルバムの重層的な内容はぜひとも味わって欲しいです。

  • Foreign Affairs ('77)
    これぞボヘミアン。前作に比べてまとまりにかけるもののやはりウェイツの世界観が感じられる作品です。ベット・ミドラーとのデュエットなど目新らしい試みがありますが、声のミスマッチと二人のバックグラウンドの共通性が効果的です。Potter's FieldとBurma-Shaveではこれまでにない壮大なスケールの演奏と物語性が感じられます。個人的にはForeign Affairに使われている難解な言い回しがとても気にいっています。

  • Blue Valentine ('78)
    エレキギターの導入など新たな試みを続けていますが、依然としてビートニクの視点を貫いた好作品です。最初のSomewhereは御存じ、レナード・バーンスタインのミュージカル、West Side Story の中の代表曲ですが、ウェイツの手にかかるとそのイメージは180度かわります。こんなに渋い曲だったのかとしみじみ。Small Changeの焼き直し的なRomeo Is Bleedingなんかもいいですが、個人的にはChristmas Card from a Hooker in Minneapolis と$29.00 が好きです。前者は過去の女性からの手紙型式の歌ですが最後のオチが最高。後者はまさにとブルースいう感じの曲ですがここでもストーリーテラーとしてのトム・ウェイツの魅力が心地よい。8分12秒という曲の長さも手伝ってどっぷりその世界に浸れます。いいですよ、このアルバムは。

  • Heartattack and Vine ('80)
    アサイラム・レコード最後となったアルバム。同じビートニク路線で活躍していた元恋人リッキー・リー・ジョーンズへの決別の歌、Ruby's Armsがなんといってもいいです。Jersey Girl やOn the Nickel といった名曲がメロディアスに歌われた後、最後にRuby's Armsで背を向けてそっと旅立つ様は皮肉にもアサイラム・レコードに向けられたものかのようです。インストゥルメンタル曲、In Shades はあたかもジャムっているうちにできたかのようなブルースナンバーでこれもおすすめ。リズムを前面に出した曲と美しいバラードを交互に並べてそれぞれの個性を引き出す手法と言いロックよりの演奏と言い、80年代の大変身を予感させます。音楽的な完成度も高くて聴けば聴く程味わい深いアルバムです。

  • Asylum Years ('84)
    アサイラム・レコード時代のベスト盤。残念ながら新曲・未発表曲がないうえにあまりにも安直な選曲なのでぼくはなるべくオリジナルアルバムを聴くことをおすすめします。

  • Early Years ('91)
    90年代になってからなぜか突然リリースされたデビュー前の音源集です。レコーディングは'71年7月〜12月。ということはトム・ウェイツ21歳当時の録音ですね。初々しい。内容は、意外にジャズへの傾倒がなくてフォークやカントリーウエスタンの影響が目立ちます。中でもこれぞフォーク・ブルースという感じのGoin' Down SlowとSo Longはなかなか迫力があっていい味だしてます。一方、Poncho's LamentとLooks Like I'm up Shit Creek Againは典型的なカントリー調で、こちらも新鮮。この頃はまだのどが潰れていないのか声がきれい(?)で、フォーク時代のボブ・ディランのような趣です。また、デビューアルバムClosing Timeの収録曲4曲の初期バージョンが聴けます。

  • Early Years Vol. 2 ('93)
    Vol. 1と同じ時のレコーディングですが、こちらはClosing Time、The Heart of Saturday Night、Nighthawks at the Dinerの収録曲8曲の別テイクが入っています。重複しているナンバーがこれだけあるとオリジナルアルバムの方のテイクと聴き比べると面白いです。(←ほとんどブートレグの楽しみ方ですが・・・)

  • Used Songs ('01)
    これは2001年11月に突然リリースされたアサイラム時代のベスト盤です。日本盤があるのかどうかは確認していませんが、輸入盤を見つけたので買いました。新曲はないけどAsylum Yearsよりもはるかにいい選曲なのではじめてトム・ウェイツを聴こうかと言う方にはおすすめです。

  • One from the Heart ('82 & ’04)
    これは廃盤だったのですが、2004年に再発されました。しかも、ボーナストラック2曲つきで! この文章を書いている段階ではまだ米国盤しかないので日本盤の情報はよくわかりませんが、ボーナストラックのCandy Apple Red、Once upon a Town/Empty Pocketsはとても良い曲です。どうしてこんなお宝を出し惜しみしていたのでしょうか。輸入版ではエンハンスドCDでありがたいムービークリップつきです。ちなみにこのアルバムは同名映画のサントラなんですが、その映画はアサイラムからアイランドへ移籍する頃にトム・ウェイツが音楽を手がけたものです。監督はあのフランシス・フォード・コッポラ。私はビデオで観ましたが、近々DVDでもありがたい特典つきででるようですので今からでしたら、それを買うのも良いでしょう。DVDでも米国版はもっともっと良い特典がついているようですので私はそちらを買います。で、内容は全曲ウェイツ作曲というもののカントリーウェスタン歌手のクリスタル・ゲイルとのデュエットが情景描写になかなか効果的に作用していていて、ウェイツのつくる曲の楽曲としての美しさが再認識できて作曲家ウェイツとしての力量が伺えます。この映画の音楽を作っていた時に当時コッポラおかかえの脚本家キャサリン・ブレナンと知り合い、のちに実生活、音楽ともによきパートナーとなることはとても有名な話ですね。

  • Swardfishtrombones ('83)
    アイランド・レコード移籍後第一弾のアルバム。これまでとはがらりと曲調が変わって知らないで聴くとびっくりするかも。ジャズベースのボヘミアン音楽に行き詰まっていたのか、がらりと変わってがらくたを寄せ集めたような雑多な音作りと無国籍なメロデイ、ダミ声をしぼり出すような叫び声。と、とにかくその変容ぶりにびっくり。しかしながらその歌詞に描写された情景はやはりトム・ウェイツ。裏の世界に向けられた洞察眼は健在です。サウンド的に実験的なものが多く、試行錯誤の様子が伺えますが、そのぶんバラエティーに富んでいてなかなか味わい深いアルバムです。Soldier's Things、Johnsburg, Illinoisなんかではウェイツの繊細な部分が意外なほど素直に表現されています。アサイラムのヘッドにこけにされたというShore Leaveはかなり好き嫌いがわかれそうですがぼくは大好きな曲です。Frank's Wild Yearsでは短い割に奥が深く楽しめる物語を書いていますが、そのなかの登場人物フランクを主人公にしてこの後、トム・ウェイツのステージデビューになる舞台公演が行われます。その意味でフランクの物語を描いた三部作、Swordfishtrombones、Rain Dogs、Franks Wild Yearsは通して聴く価値があります。

  • Rain Dogs ('85)
    前作の延長上に作られたこのアルバムはずっとその内容の幅が広がっています。とにかく、参加ミュージシャンが豪華なせいもあってその音、演奏は十分楽しめます。とくに3曲でギターを弾き、1曲でバックコーラスをやっているキース・リチャーズはいい味出してます。Union SquareとHang Down Your Headのギターはキースそのものです。ストーンズのファンにも大のお勧め。それから5年後にロッド・ステュアートがカバーするDown Town Train。舞台はニューヨークの喧噪ですが、言い回しがなんともウェイツ節。嗄れ声がよく似合う曲です。ロッド・ステュアートの方はあのハスキー声とまとまった演奏で都会の洗練された感じがありますが、元祖のウェイツは重厚さが加わって描写がリアルです。そして、無国籍で多種多様な音のなかで、ひときわ美しくウェイツ・メッセージを感じさせるのがTime。それにしてもこのアルバムはよく聴いています。

  • Franks Wild Years ('87)
    フランク三部作の最後。舞台の後とあって全体的にミュージカルめいた感じがしますが、この無国籍スタイルもだいぶ板についてきたみたいで余裕が感じられます。最初のHang on St. Christopherはそのベースラインと言い、歌詞を反映したスピード感と言い最高の始まり方。ホリー・コール・トリオが全曲ウェイツナンバーのカバーを出したのは有名ですが、そのタイトルとなったTemptationやYesterday Is Here、Straight to the Top、Telephone Call from Istanbul、Inocent When You Dreamなどの曲は独立した曲としてもかなりいい曲だと思います。

  • Big Time ('88)
    前述のフランクの舞台をベースにしたライブ映画のサントラです。おもにフランク三部作の曲が中心。映画は舞台を元にしたライブツアーのものですが、観客の姿が一切現れない上にウェイツが一人何役もこなす独り芝居と言っていい内容。ライブの記録と演技がごちゃ混ぜになってこれといったストーリーもないシュールで前衛的な映画ですが、ライブならではのアレンジとなんと言っても動くウェイツの姿がよいです。(つまりファンじゃないと楽しめないものですが。)もっともトム・ウェイツご本人はこの映画に映っている自分の姿が恰好悪くて気に入らないそうですが、ファンにはたまりませんよ、これは。ちなみにビデオはもう生産はされていなくて在庫のみの半廃盤状態なので入手は困難かもしれません。あ、映画の話になっちゃいましたが、もちろんサントラCDもいいですよ。選曲はかなり違ってるので両方の聴きくらべがおすすめです。DVDで出てくれるとうれしいな。

  • Night on Earth ('92)
    ジム・ジャームッシュ監督の同名映画のサントラでほとんどがインストゥルメンタルだけれども全曲ウェイツの作曲。テーマのGood Old World を含め、映画にはなかったウェイツのボーカル曲が追加されているのはファンサービスかな。

  • Bone Machine ('92)
    グラミー賞のオルタナティブ・ロック部門(だったかな)を受賞したアルバムでがらくたを寄せ集めて作ったというパーカッションが楽しめます。このアルバムは産業革命以後の人間社会を痛烈に風刺したものらしく、ウェイツナンバーにしては珍しく悪役の姿を描いたものや政治的なものなどが目立ちます。よく聴くとかなり面白いアルバムで聴けば聴く程楽しめます。ここでもあのキース・リチャーズが参加していてラスト曲、That Feelでは世紀のダミ声デュエットが聴けます。気に入っているのはEarth Died Screaming、Such a Scream、All Stripped Down、Who Are You?、The Ocean Doesn't Want Me、Jesus Gonna Be Here、A Little Rain、Goin' Out West、Murder in the Red Barn、Black Wings、I Don't Wanna Grow up...と、挙げていくと全部挙げちゃいそうな勢いです。とにかくいいですよ。

  • The Black Rider ('93)
    舞台のための音楽を練り直して作った準サントラ・オリジナルアルバムで、舞台を知らなくても十分楽しめます。参考までにブックレットにあっただいたいの粗筋をさらに簡単にすると・・・「悪魔との取り引きで思い通りに当たる魔法の銃弾を手に入れた若者が射撃コンテストの当日に放った弾が悲劇を招き、若者とその花嫁が精神病院で狂ったように騒ぎ踊る中で悪魔主催のカーニバルが催される」という話だそう。(舞台を知らないのでもし違ってたらごめんなさい。) これはドイツのロマン派文学、Derfreischutzと言う作品を元にしたものだそうで、脚本があのビートニク作家のウィリアム・バロウズで演出はロバート・ウィルソン(彼は代表的な前衛演出家だそうです。知らないのでこれ以上コメントできません、ごめんなさい)。是非とも映画かなにかにしてほしいものです。このウェイツ版ブラック・ライダーのCDは舞台の粗筋どおりに進行するのでおぼろげながら話を知っているだけでずいぶん聞こえ方も違ってきます。音づくりは前作、Bone Machineの流れを保っていて色々楽しい試みが盛り沢山です。NovemberやThe Briar and the Rose、I'll Shot the Moonなんかはトム・ウェイツならではの味わいもあってファンには嬉しい限りです。

  • Beautiful Maladies ('98)
    アイランド時代のベスト盤で、選曲には本人も参加しているとか。ウェイツはエピタフというパンクのレーベルに移籍したのでこのベストアルバムがアイランドからの最後のアルバムとなりました(契約枚数の消化かな?)。選曲はHang on St. Christopherから始まってTemptation、Clap Hands・・・トム・ウェイツにしてはちょっと人気を意識したかのような選曲が続きますが、Frank's Wild Yearsの3部作を彷佛とさせるまとめかたです。しかし、3部作以外からも当然何曲も選ばれていてそれがいいスパイスとなって通して聴くとアルバムとしてもなんともまとまっているのが新鮮です。ラストにTimeというのも心憎いですね。そして何よりもアイランド時代のウェイツ音楽を象徴しているのがBeautiful Maladiesというタイトル。聴けば解るウェイツの美しきMaladies(慢性的な病気)。中毒患者はこんな風にバーボン片手にウェイツのアルバムを聴いたり、調子にのってこんなホームページを作ったりしちゃうんです。

  • Mule Variations ('99)
    The Black Rider以来全く音沙汰がなく、半ば引退状態だったトム・ウェイツがついに1999年4月にリリースしたニューアルバムです。前作から6年、パンクレーベルに移っての新作とあってアイランド移籍当時のような衝撃的な大変身も期待しましたが音楽性は概ねアイランド時代の路線を踏襲している感じがします。ミュージシャンのラインナップはRain Dogsの時のメンバーで、曲づくりには大半の曲でウェイツ夫人のキャスリーン・ブレナンが参加しています。日本国内版にはウェイツ本人による解説があるのでここに書くまでもないんですけど、キーワードはシュールな田舎風という意味の造語Surrural。全体的に地味な感じでブルース色が濃いのが特徴です。 最初にヘンな国日本とヘンなショービジネスヒーローを歌ったBig in Japanがこれぞオルタナティブ・ロックというカッコよさでガツンと来た後はウェイツワールドのオンパレード。いつものウェイツならではの幅広い視野を持った詩に、よく聴けばピアノの軋む音まで録音されているリアリズムとブルースが加わって、かつてよりも安定した重層感があります。いろいろあたらしい試みもされていて、21世紀のトム・ウェイツの活動が楽しみになります。

  • Alice ('02)
    前作から3年のブランクで新作のリリース。しかもBlood Moneyと同時リリースと言うありがたさ。トム・ウェイツの完全復活、いや新時代の幕開けを感じさせる行動ですが、内容も新たな方向に進んでいるのがよくわかります。この作品は1992年にロバート・ウィルソンの演出で舞台化されたAliceのための音楽を録り直したということですが、The Black Rider的な実験的要素は影を潜め、Mule Variations的なブルージーさもなく、とてもすっきりしっとりしたアレンジながら幻想的なアルバムに仕上がっています。詩がいつにもまして洗練されている感じで穏やかな演奏とメロディが叙情性を高めます。ダミ声でわかりづらいところがありますがウェイツの曲はとてもメロディアスで、きっとホリー・コールなんかはこのアルバム聴いてまたカバーしたくなるんじゃないでしょうか。最初のAliceで物語の幕が開きますが、このナンバーがとてもいい。引き込まれます。Everything You Can Think、We're All Mad Hereなんかはアイランド時代のサウンドを彷佛とさせます。Flower's Grave、Fish & Birdなどのナンバーは心の琴線に触れて胸が熱くなります。泣かせます。Kommienezuspadtはアップテンポですが即興的な印象を与えるスピード感と後半の演奏はジャズ好きならきっと心奪われることでしょう。Reeperbahnはバンジョーの音がエキゾチズムを醸し出してアイランド時代に見られたジプシーサウンドの印象があります。アルバム全体を通して聴くと今までのサウンドを下敷きに新たな世界を作ろうとしているのがよくわかり、やはり重層的で聴きごたえがあります。

  • Blood Money ('02)
    同時リリースのAliceとは対照的なサウンドで、アイランド時代とくにフランク三部作あたりが好きな人にはとても楽しめる曲が並びます。こちらもロバート・ウィルソン演出の前衛オペラ舞台Woyzeck(2000年)のための音楽ということですが、Aliceと決定的に違うのは悲劇的でシニカルな内容が多く緊張感が漂っている点でしょうか。いくつかの曲で変調がありますがこれは今まであまり特徴的ではなかった試みでとても効果的だと思います。Aliceでも印象的な演奏を聴かせているColin Stetsonという管楽器奏者(ごめんなさい、詳しく知りません)がとてもいい。この管楽器とストローバイオリン、マリンバの絶妙なアンサンブルが心地よいです。最初のMisery Is the River of the World、続くEverything Goes to Hellがこのアルバムの印象を特徴付けています。息抜きにConey Island BabyやLullabyがありますが、God's Away on Business、Another Man's Vine、A Good Man Is Hard to Findなどアイランド時代に培った無国籍風実験的アプローチがうまく消化されてきれいにまとめられた感があります。とくにStarving in the Belly of a Whaleはスピーディーなギターのリズムとブルースハープがとてもきれいに織り込まれていてサウンド的にはアイランド時代の延長としての一つの結果が提示されている感じがします。個人的にとても気に入っているのはAll the World Is Green。切なさと哀愁と不思議な暖かさが封じ込められた曲です。トム・ウェイツのカードのバリエーションがさらに豊富になりこれから彼が作る世界にとても可能性を感じます。
    2003年9月に日本にやってきたWoyzeckの公演に行ってきましたが、本当にすばらしかったです。DVDになってくれたりするといいんですけどねぇ。

  • Real Gone ('04)
    Alice、Blood Moneyの同時リリースから2年半ぶりの新作は度肝を抜く新サウンドです。アルバムタイトルどおり「ホントにイって」ます。リズム隊に息子ケーシーが参加して大半のナンバーでタイコ叩いたりターンテーブルいじったりしてますが、その辺りも含めてサウンド的にはちょっと前のラモーンズのトリビュートで演った曲がこのアルバムづくりの伏線になっているかのような気がします。あと、演奏としてはマーク・リボーのギターが冴えまくっていてリボー好きな人にも大のオススメ。
    1曲目のTop of the Hillのリズムからびっくり、この曲とMetropolitan Glide、Baby Gonna Leave Meあたりはヒップホップ調ですが、色んな音を足しながらもまとまっているのはウェイツ一流のサウンドづくりのなせる技でしょうか。最近のウェイツ節とも言えるスケールの大きな歌詞の2曲目、Hoist That Ragがまたケイジャンチックなリボーのギター(あの「偽キューバ人」のノリ)でカッコ良いです。心を鷲掴みにしてくれる吠えるウェイツボイスもとてもナイス。でもリボーのギター演奏で最も聴かせてくれるのはブルージーなマンボといった感じのShake Itで、ウェイツのボーカル、パーカッションとの絡みも最高です。つづくDon't Go into That Barnはリボーはいませんがスピーディでいかにもレイバーソング。ANTIの公式サイトで前もって公開されていたHow's It Gonna Endは今までのウェイツ・ナンバーの延長にあるような曲でアルバムの真ん中に配置されている所もニクいです。そして落ち着いてメロディアスにしっとり歌う演歌チックなDead and Lovelyはある少女の悲しい物語ですが、ウェイツが楽曲提供した映画「ポロック」でジャクソン・ポロックと共に事故で命を落とした少女を連想してしまいました。どーでもいいですが、一度演歌に聴こえたらかなり演歌っぽいです、この曲。Trampled Roseはちょっと意外な新たなウェイツメロディー。小品Clang Boom Steamで小休止のあと続くMake It Rainがカッコ良すぎ! ボーナストラックをのぞいて最後をしめくくるDay After Tomorrowはウェイツにしては珍しい政治的な要素を含んだ曲ですけど彼の嗄れ声が非常に説得力をもって響きます。骨の髄まで震わせてくれます。この中では感想が抜けちゃいましたが今までのウェイツナンバー中最長のSins of My Father (ブックレットではなぜかSins of the Fatherになってます)、リボーのラテンチックなギターから入るGreen Grass、語り口調のCircusあたりは従来のウェイツらしさがつまってます。
    あと、国内盤にはCheck a Boomという曲がボーナストラックとして書かれていますが、輸入盤にもシークレット・トラックとして入っています。


  • Stay Awake : Various Interpretations of Music from Vintage Disney Films ('88)
    ちょっと意外なコンピ盤で、あの往年のディズニー映画の曲をいろんなアーティストが演ってるものです。他にはロス・ロボス、ハリー・ニルソン、スザンヌ・ベガ、リンゴ・スター、ジェイムス・テイラー、NRBQ他と、なんとも不思議な面々。我らがウェイツは「白雪姫」の Heigh Ho (The Dwarfs Marching Song)をやってます。これ、あの「ハイホー、ハイホー♪」を想像してるとびっくりしますよ。トム・ウェイツの手にかかるとあの陽気な曲が見事におどろおどろしいレイバーソングに大変身しています。童話に隠されたもうひとつの世界に気づかされます。トム・ウェイツはもしかしてガキんちょの頃ディズニー映画を観ていたのかな・・・?

  • Dead Man Walking ('95)
    ティム・ロビンス監督映画のサントラです。が、タイトルには「Music From and Inspired by The Motion Picture」と書かれてあって実際に映画で使用されたのはほんの僅か。我らがウェイツの提供曲2曲、The Fall of TroyとWalk Awayも映画では使われていませんが、いずれも名曲です。この頃はアルバムでの作品発表は休止状態だったわけですけど、ウェイツ節は健在、音も詞も流れとしてはBone Machine以降の流れにあって深い味わいがあります。他にはエンドロールにかかったブルース・スプリングスティーンのテーマ曲ほか、パティ・スマイス、スザンヌ・ヴェガ、ミシェル・ショックト、スティーブ・アールなどとなかなかスゴい顔ぶれ。 映画の方は死刑囚の処刑が執行されるまでの死刑囚と修道女、犯罪被害者家族の葛藤を軸に死刑制度の実態と問題点、社会の暗部、人間性の善悪にまで非常に深く掘り下げていて見応えありますので、こちらも見る価値十分あります。トム・ウェイツの曲は使われていませんがトムがインスパイアされて2曲も楽曲提供している以上、ファンとしては注目に値すると思います。

  • Extremely Cool ('99)
    盟友チャック・E・ワイスのセカンド・アルバム。とはいえ、1stは1981年に未完成だったものをちょっとだけレコード会社が勝手に出したという曰く付きの幻のアルバムだったので、実質これが1stのようなもの。この人、かなり前からLAでライブマンをしていたわけですが、リッキー・リー・ジョーンズのデビュー曲のタイトルになったことから推測できるように、一時期トム・ウェイツ、リッキー・リー・ジョーンズらと共にトロピカーナで生活していたとのことです。で、本格的なアルバムリリースにあたってウェイツがひと肌脱いだというワケです(共演&プロデュース)。共作としてクレジットされ、ダミ声を聞かせてくれているのはIt Rains on Me、Do You Know What I Idi Aminの2曲。前者はイカにもなウェイツ節のゴキゲンナンバーです。後者はウガンダの独裁者アミンの名前を念仏のように唱え続ける奇妙な曲。ワケわかりません。でも、全面的にウェイツが協力しているこのアルバム、旧知の仲のハッピーな雰囲気が漂ってます。それから、1曲目のDevil with Blue Suede Shoesが最高にいい(この曲はジョニー・デップのプロデュース)。買って損はない名盤です。

  • Big Bad Love ('02)
    同名映画のサントラです。映画のほうは観ていないのでコメントできませんが、全体的にとても音がクリアで生々しいブルースナンバーが並んでいます。トム・ウェイツの提供曲はバラード2曲(Long Way Home、Jayne's Blue Wish)で、どちらもとても味があって良いです。ギターにホーンというアレンジも渋めのウェイツ節にぴったり。Long Way Homeはノラ・ジョーンズが割と忠実にカバーしてますね。このサントラ中の他のアーティストはあまり知らなかった人が多かったんですが、ディランのEverything Is BrokenをR.L.バーンサイドがカバーしてるのにはジェームス・コットンのハープにバディ・ガイとケニー・ブラウンのギターだとか、スティーブ・アールのGoodbyeではノーマン・ブレイクがドブロやってるとか、元テレビジョンのトム・ヴァーレインのインスト曲にはクロノス・カルテットが参加しているとか、クレジットを見るとなかなか発見があって面白いです。

 
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